トイレの貼り紙を見ずしてパチンコ店を語るな<後編>

こんにちは、パチンコライターの栄華です。

表題の件について、引き続き語らせて頂きます。なお、前編をお読みでない場合は理解不能に陥る可能性がありますので、お目通しのほどよろしくお願い申し上げます。

トイレの貼り紙を見ずしてパチンコ店を語るな<前編>

 

「コミュニケーション掲示物」とは

前編の終盤で出現した「コミュニケーション掲示物」なる謎ワード。わたくしの造語です。

パチンコ店のトイレは、迷惑行為防止やマナー向上を訴える内容の貼り紙のバリエーションが豊かであることはお話した通りですが、それ以外の貼り紙にも変わり種が数多く見られます。

「注意事項を伝える」「サービスを案内する」ことが一般的な貼り紙の役割ですが、そのどちらにも該当せず「これ、貼る必要ある?」と思ってしまう不思議なものや、案内されているサービスそのものの意図が読み取りづらい例 がたくさん存在します。私はこれらを「コミュニケーション掲示物」と名付けました。

さっそく具体例をご覧頂きましょう。

 

コミュニケーション掲示物の具体例

<例1>クイズ 

上:関西地方・2014年、中:関東地方・2011年、下:関西地方・2011年

個室の便座に腰かけた時、ちょうど目の高さになる正面の壁に貼り付けてあるため、好むと好まざるとに関わらずシンキングタイムに突入させられます。「答えは次回発表します」「スタッフまで」など、正解を知るまでに過程を設けることでエンターテインメント性を増し、店員とのコミュニケーションを促す工夫が感じられます。

 

<例2>ポエム 

左上:四国地方・2017年、右上:東北地方・2018年、左中:九州地方・2015年、右中:関東地方・2018年、左下:東海地方・2011年、右下:関東地方・2018年

ポストカードをそのまま貼り付けた感じの物が多いですが、全国的に見られます。風景写真や絵画より詩が選ばれるのは、客に向けてメッセージを発したい想いの表れではないでしょうか。

 

<例3>占い 

左上:関東地方 右上:東海地方 下:関東地方 いずれも2011年

今気付いたのですが、写真はどれも2011年のもので、そういえば最近あまり見かけません。内容を通して特定の台を示唆してるとか、金運が良いから勝負しろと煽っている等の疑念を持たれる可能性があるからでしょうか(そのように受け取れる内容のものは見たことがありませんが)。

 

<例4>健康情報 
高齢の常連客 が多いホールの場合、「元気で通い続けてもらうこと」は死活問題にも繋がる大きな課題です。

 

これは一見、新聞記事をコピーしただけで工夫が感じられませんが…

 

 

なんと希望者への配布サービス付きでした。もらって来なかったことを悔やんでいます(関東地方・2018年)。

 

 

続いてこちらはトイレの中で出来る最も即時性の高い健康チェック(関東地方・2012年)。

「黄疸や血尿が出てんのにパチンコ屋へ来るわけないだろ!」 と思われる方もいるでしょうが、ありうるんですよね、ご老人の場合…。

 

そしてこちらは、大作「ご遊技中疲れを感じたら四部作」です(関東地方・2011年)。

1枚1枚手描きで、色鉛筆で丹念に彩色されています。きっと「目の疲れを感じたら」に描かれた子みたいな女性スタッフが作ったんでしょうね。もし行きつけのホールにこんな可愛い貼り紙があったら、それだけで常連客になります。

 

 

<例5>お手紙 
パチンコ店では、「お客様第一宣言」「まごころ接客〇箇条」といったホールの営業方針を記した掲示物をよく見かけます。これもその一種と分類しそうになりましたが、皆さんはどう思われますか。「手書きのお手紙」です。

(抜粋)
すべてのお客様に平等で満足を提供するサービスとは何かを常に考えていますが、勝ち負けのあるこの業界で必ず負けるお客様もいます。だから難しく、その答えは無いのかもしれません。<中略>このような場所から失礼だと思いますが最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。少しでも、この想いが伝わればと…

「営業方針を示した掲示物」で片付けるにはあまりにも深刻で、見過ごせない重みがあります。貼る場所として「トイレの個室内側の扉」を選んだのは、無防備な状態で用を足す客に向かって、「ホールも見栄を脱ぎ捨て、ありのままの姿で苦悩を語りますよ」という姿勢を見せたかったのではないでしょうか。

 

<例6>その他 
ここからはアラカルトでお楽しみください。

◆「こんな上司はイヤ」ランキング(関西地方・2017年)

手書き文字が味わい深いですね。ランキングは定期的に書き換えられているようです。

 

◆名付け親になろうとする店長(東海地方・2011年)

たった一文ですがどこから突っ込めばいいのか迷います。ブラックジョークにも受け取れますね。

 

◆店長なんでも相談室(四国地方・2017年)

お客から店長への相談なんて「最近勝てないから出して」ぐらいのものだと思うんですが、どんな相談が寄せられているんでしょう。「出玉」をサービスとして謳えなくなり、客の不満を受け止めるために考案された苦肉のアイデアなのかもしれません。

 

◆トイレのトリビア(甲信越地方・2012年)

「備品のトイレットペーパーを持ち帰らないで」という貼り紙の隅に載っていたもの。緊張と緩和のバランスが見事です。

 

◆DVD紹介(関西地方・2015年)

もう一度だけ言います。パチンコ店のトイレの壁です。

 

 どうしてコミュニケーション掲示物が存在するの?

トイレ研究の必読書とも言われる『THE BATHROOM バス・トイレ空間の人間科学』という本の中で、著者のアレクサンダー・キラは、「人間は公共的トイレにおいて、そこがプライベートな場だと感じられるほど否定的な感情を起こしにくい」と述べています。

アレクサンダー・キラ『THE BATHROOM バス・トイレ空間の人間科学』(TOTO出版・1989年)

例えば「仲の良い店員がいるお気に入りのパチンコ店」は、自宅ほどではないにしろ、プライベートに近い空間と言えます。プライベートな、お気に入りの場所を汚したいと思う人はまずいません。そう考えると、トイレの貼り紙は「仲の良い店員のごとく客に語りかける」という役割を担っているのではないでしょうか。「コミュニケーション掲示物」と名付けた理由もそこにあります。

貼り紙たちからの語りかけよって、客は「店から目配りされている」という感覚を持ち、無意識に親しみや気安さを覚えるようになります。その感覚はやがてホールへの愛着へと変わり、トイレにおける迷惑行為の防止にも繋がるのです。

ホール自身がそういった効果を自覚して掲示物を貼っているかどうかは分かりません。しかし約2000店舗の現役ホールを訪ね歩いた私の心の中には、様々な貼り紙に語りかけられた温もり が確かに残っています。そして今では、この温もりを感じること自体が、パチンコホール探訪を続ける理由のひとつになっているのです。

提供するサービスの性質上切り離すことができない「勝ち負け」をめぐる妬みや憎しみ。人間の負の感情が交錯する環境が、パチンコ店のトイレを特色あるものに育み、コミュニケーション掲示物という副産物を生み出しました。

ただ、今回紹介したユニークな貼り紙の大半は、小~中規模店で発見したものです。未だ止む気配のない閉業の嵐の中、こうした貼り紙たちもどんどん消え失せていることを思うと、自分の部屋を失うかのように寂しいのです。

WRITER 栄華

ライター

「パチンコの周辺文化」を探究するフリーライター。全国2200店以上のホールを訪ね歩き写真を撮影するほか、「パチンコ店のトイレ研究」や「パチンコ書籍の蒐集」など、他の追随を許さない独自の着眼点が注目されている。活動媒体は「パチンコ必勝ガイド」「パチンコ・パチスロTV!」など。