パチスロ名機列伝②~獣王編~ 過去の名機を実際に入手しいじくり回しながら思い出に浸るコラム

サバンナチャンスの音楽が響いた。 僕はこの音楽をあの子に届けたいと思った。

 

なんだか懐かしいような嬉しいような感情と共に、置き忘れてきた何かを思い出した。少し胸が締め付けられるような切ない感情だ。少なくとも僕にとって“獣王”とは、ただ単純に懐かしいだけのスロットではないのだろう。複雑な感情を呼び起こすトリガーのような存在なのだ。

 

こんなスロットが存在してもいいのだろうか。この台に初めて相対したとき、純粋にそう思った。こんなものが、認められるわけがない、完全に一線を越えてきやがった、そう思ったと同時に心のそこから魅了されている自分がいた。

 

西暦2000年、12月、新世紀が訪れるちょっと前にその機種はホールに登場した。まさしくスロットの新時代を作ったと語り継がれる驚異の機種「獣王」である。

サミーから登場したこの異色の機種はそれまでのスロットの歴史を大きく塗り替えることとなった。まさしく分岐点といえる台だろう。

 

ライオン、ゾウ、ダチョウ、マングース、カバ、キリンといったサバンナの動物をモチーフとしたスロット台、というとコミカルでマイルドな印象を持つかもしれないが、実際のところはとんでもない、凶悪な性能を有した爆裂機種だった。

 

2000年当時、この機種に魅せられた僕は狂った。とにかく狂った。金がなくなろうとも、とにかく打ちまくった。脳波とか測定したら特殊な波形が取れたであろう精神状態であったように思う。家賃が払えなくなって追い出されかけたのだから相当なものである。それだけ面白い機種だった。

 

冒頭でも述べたように、僕はこの獣王に対してあまりいい感情を持っていない。いくら熱中した機種といえども、うわばみのように家賃を飲み込み続けた極悪な姿や、最後の希望すらも無慈悲に飲み込んでいく姿などがフラッシュバックするのだ。そして、ある記憶が強烈な枷となって心を締め付けている。そう、できればもう関わりたくない、そんな想いすらある台なのだ。

けれども、いつの間にか購入することになっていた。なんでこんなことになってしまったのか。

 

まあ、早い話が、いつまでも獣王との関りを避けることは、それ自体が獣王の呪縛から解き放たれていないということである。ここらで決着をつけておく必要があるのだ。そう獣王自体や、それに付随するある種の感情と決別すべく、今回、購入に踏み切ったのだ。

 

過去の名機といえども入手は困難を極めたが、なんとか手に入れることができた。いつも思うが、品薄すぎる、おまけに送料が高すぎる。しかも、持ってきた西濃運輸のおっさんがクッソ非力な感じで、ゼーハー言いながら死にそうになって配達してくれたので毎度のことながら悪いなあという気持ちになった。

 

あの幾多の情熱と幾多の家賃、そのすべてを飲み込んだ獣王が我が家にある。それはなんだかおかしな気分だった。ちょうどパンドラの箱が我が家にあったらこんな気持ちだろうか。それとも殺したいくらいに憎い宿敵が家にいるような気分だろうか。

外観だけ見ると平和な台だ。かわいらしい動物があしらわれていてコミカルで楽しげな雰囲気すらしてくる。とても家賃を飲み込むような台には見えない。それも3カ月分だ。3カ月分だぞ。

筐体上部に獣王と書かれているが、それにかぶさるようにして書かれている「SUPER AT」の文字に注目されたい。実はこの「SUPER AT」こそがこの機種を悪魔じみた家賃回収マシーンたらしめている最大の要因なのだ。

 

あまり詳細に話すとむちゃくちゃ長くなるので割愛するが、スロットにはビッグボーナスとレギュラーボーナスというボーナスゲームが搭載されていることが多い。それ以外にも数枚のコインが出てくる「小役」と呼ばれるものがある。これらは厳格に当選確率が決められていて、当選しやすいゾーンやしにくいゾーンがあることは許されないことになっている(リプレイのみ例外)。

 

つまり、ビッグボーナスがめちゃくちゃ連発できてすげえわ、という状態にはならないし、狂ったように小役が揃いまくるゾーンも作れない、同じくらいの確率でくる、というわけなのだ。ある意味、平和で平坦なゲーム性が続く、それは仕様上仕方のないことで当時のスロットはだいたいそうだった。そこに彗星のごとく登場したのが「SUPER AT」を有する獣王、この機種だった。

 

獣王のゲーム性は非常にシンプルだった。もちろん従来の機種と同じくビッグボーナスとレギュラーボーナスが搭載されているが、こんなものはただのオマケに過ぎない。実態はこの「SUPER AT」の権化である「サバンナチャンス」これをいかに引くかにかかっている。それが獣王だ。

このサバンナチャンスが実に大胆でとんでもない仕組みになっている。基本的にこの「獣王」、当たれば15枚もらえる子役がほぼ毎ゲーム成立している。規定によって小役と言えども確率を変えることはできない。なら常に成立させておけという大胆な考え方だ。いついかなる時にリールを回してもほぼ15枚役が成立しているという大胆な設計だ。

 

ただ、それだとコインを3枚投入して打てば15枚もらえるわけで、やるたびに12枚増えていく。めちゃくちゃお得。ただ、そんな無償でお金をくれるような話はありえない。世の中はそんなに甘くはない。きちんと対策が立てられているのだ。そう、この15枚役は簡単には揃えられないようになっているのだ。

 

単純に言うと、常に15枚役は成立しているけど、その15枚役は12種類ある。種類が違う15枚役は狙っても絶対に揃わない。もちろん、15枚役は成立しているが、どれが成立しているのか分からない仕組みになっている。1/12の確率でたまに揃うことはあってもめちゃくちゃ増えるということは絶対にない。

 

ただ、この機種の肝である「サバンナチャンス」に入ると違う。この12種類の15枚役が揃うように常にアシストしてくれるのだ。

これに表示された動物を押していけば、15枚役がモリモリ揃う。揃うようにアシストしてくれるわけだ。だから「AT(AssistTime)」と呼ぶ。1ゲームごとに12枚増えて10ゲームか30ゲーム続くのでボーナスに匹敵する枚数を得られる。

 

おまけにこのサバンナチャンス、ボーナスじゃないのでめちゃくちゃ連チャンしてもいいし、めちゃくちゃ当たりやすいゾーンがあってもいい。やりたい放題できるのだ。サバンナチャンスが終わったと思ったらまた始まったよ、まただよ、これが可能だったし、事実、それがこの機種の魅力だった。

 

当時、このサバンナチャンスに魅了された人が続出した。めちゃくちゃ連チャンする射幸心も魅力だったが、サバンナチャンスのBGMも妙に心を掴む音楽なのだ。この台に魅了された人なら聴くだけで心躍るご機嫌なナンバーだ。

打ってみる。

 

やはりというかなんというか、ドウーンというリールの音と、バシバシっと響くストップボタンの音を聴いていると、当時のトラウマみたいなものが蘇ってくる。本当はこの記憶の蓋を開けるべきじゃないのかもしれない。

あの日の僕は徹底的に追い込まれていた。

 

国道沿いの小さなパチンコ屋に導入された獣王は、まさしく獣だった。魅惑のサバンナチャンスに魅了された僕はとにかく金を吸い取られ、家賃を払えないところまで追い込まれていた。

 

「頼む。今日だけは奇跡を! 頼む!」

 

そう祈る僕の目の前には、動物があしらわれたコミカルなスロット台があった。そう、獣王だ。

 

今になって思うが、こうやって生活や何かを賭けてスロットを打つべきでは、ない。使ってはいけないお金を使ったり、借金してきたお金を使ったり、そういったもので打つスロットは楽しくない。あくまでも余裕のあるお金で楽しむべきなのだ。

 

けれども、当時の僕はそれが分からなかった。完全に獣王に、あのサバンナチャンスのサウンドに脳が焼かれていた。この金を失ったらアパートを追い出される。手には安アパートの家賃である3万3千円が握られていた。これを失ったら完全に路頭に迷う。背筋を冷たいものが流れるのを感じた。

 

「よう、今日は6が入ってるかなあ?」

 

真剣な面持ちの僕とは対照的に、軽やかな感じでジョーがやってきた。ジョーとはこの店で知り合った常連仲間だ。獣王に出てくるカバに似ている男だった。そんなこと言ってもいまいち分からないと思う。

これだ。

 

「入ってるわけないだろ」

 

いつものように軽口を叩くが、僕の顔は真剣そのものだった。

 

この獣王にはサバンナチャンス以外にも大きな特徴があった。それが「設定6がまるわかり」という点だ。

 

スロットには出やすさを調整する設定という概念が存在する。おおむね、設定1が完全なる極悪設定で客を殺しにかかっている設定、そして設定6が最高の設定で出やすい設定、現代の桃源郷と覚えてくれればよい。

 

この設定は完全なるブラックボックスで、打ち手である客は知る由がない。もしかしたら今日はめちゃくちゃ出たから設定良かったのかもな、全然でないわ、設定1だなこれ、そうやって予測するしかないのだ。

 

ただ、この「獣王」は違った。今でこそ、このブラックボックスである設定を示唆する演出は多くの機種に搭載されているが、その源流はこの獣王にあるといっても過言ではない。とにかく設定「6」が丸わかりなのだ。

 

具体的にどうわかりやすいかというと、まず、先ほど説明した「獣王は常に12種類の15枚役が成立している」という点を思い出していただきたい。

ちなみに、こういう押し方をして、

こうなると、揃うかどうかは分からないが何らかの15枚役が成立しているということになる。

ただ、ここにチェリーが来なかったりすると、15枚役以外の何か、が成立している可能性がある。この場合、リプレイ、チェリーなどの小役や、ビッグボーナス、レギュラーボーナスなどが成立している可能性がある。

 

ただ、ごくごく薄い確率だが、何も成立していない“ハズレ”である可能性もある。普通のスロットはこの何も成立していない“ハズレ”が大部分を占めるわけだが、この獣王は常に15枚役が成立しているという特徴がある。だから“ハズレ”の方がレアなのだ。そして、この“ハズレ”こそが目指すところであるサバンナチャンス突入の契機となっている。

 

ただ、この“ハズレ”が出たからといってサバンナチャンスに入るわけではない。そこは高確率状態がどうこうとか設定の偶奇がとか複雑な要素が絡み合うのだけど、まあ、ざっくり言って“ハズレ”の中の一部だけがサバンナチャンスにつながるということだ。そもそもハズレもそんなに出ないのに、いいタイミングで引かないとサバンナチャンスに繋がらないという、遠い存在だったりするのだ。

 

ただ設定6だけは違う。どんな状況で引こうが、とにかく“ハズレ”を引けば約93%の確率でサバンナチャンスに繋がるという豪快設定。つまり、何回か“ハズレ”を引いて、それが全部サバンナチャンスに繋がれば桃源郷であるところの設定6を引き当てた、ということである。逆を言えば、数回“ハズレ”を引いたのにサバンナチャンスが来ないということは、設定6ではない、ということだ。

 

「俺は今日こそ設定6を引き当てるんだ。今日はいける気がする」

 

ジョーはリプレイの時に出てくるカバみたいな顔をしてそう言った。といわれてもどういうものか分からないと思う。

これだ。

 

当時は本当に獣王の設定6を目指す人が多かった。朝から打って2回くらい“ハズレ”が出てもサバンナチャンスが来なかったら打つのをやめる人もいたくらいだ。

 

「入っているわけないだろ。俺、見たことないぞ」

 

獣王は設定6が丸わかりである。これは打ち手にとって大きなメリットだった。勝ちやすい設定を手に入れたことがすぐにわかり、あとは延々と打ち続けるだけでいいのだから。ただ、それは同時にデメリットでもあった。なぜなら、そんなもの見たことない、という人が大半だったからだ。

 

都会の店や、激戦区の大型店など、確かに設定6を入れる店はあった。それが大きな宣伝効果となり、「あそこの店は獣王に6入れてるぞ」と客が押し寄せてくるからだ。しかしながら、僕らが打っているような田舎の、それもこじんまりとしたしょぼい店なんかは、完全にぼったくりで、なにがどう間違っても絶対に設定6は入らない、それどころか5や4だって怪しいし、下手したら3だってない可能性があったのだ。

 

高設定、高設定と叫びながら死屍累々の設定1の中から設定2を探してる、なんて田舎のぼったくり店でよく見る光景だった。

 

現に、この店で長いこと獣王を打っていたが、本当に周りを含めて6なんて見たことがなかった。完全に都市伝説の類、UMAみたいな扱いだったのだ。存在はするのだろうけど、見たことはない、いつかは見ることができるのだろうか、そんな扱いだ。

ただ、いまは目の前に実機がある。あの獣王そのものがある。いくらでも都市伝説を再現することができるのだ。

打ち始める。

 

あの獣王の設定6だ。追いかけて追いかけて、それでも捕まえることができなかった設定6だ。1ゲーム1ゲーム回すごとに胸が締め付けられる想いがした。この感情はなんだろうか。

 

「いいや、今日は入ってる気がする」

 

またジョーのセリフから回想の続きがはじまった。

 

「この店が6を入れるわけないだろ、ここはそんな店じゃないだろ。設定2すら怪しいわ。バカも休み休み言え」

 

そんなクソみたいな店で家賃を賭けた戦いをしているのだから、僕もたいがい休み休み言うべきである。そんな会話をしていると、フッといい匂いのする女性が僕とジョーの間を通り過ぎた。

 

「マドンナだ」

 

ジョーが小声で言った。マドンナは本当にマドンナで、めちゃくちゃ美人で露出の高い服を着ている名物常連だった。いつもはパチンコを打っているはずだったが、なぜかフラフラと獣王のシマにやってきたのだ。

 

心境の変化でもあったのだろうか、それとも話題の獣王を打ってみたいと思ったのだろうか、何台か獣王を物色した後、なぜか僕の隣の台に座った。

 

普段なら店のマドンナが隣に座ってきたことに興奮し、ちょっといいところ見せてやろうか、そう思って発奮するのだけど今日だけは迷惑だった。なにせ家賃を賭した男の死闘がこここで繰り広げられるのだ。住む場所となけなしの金を賭けて、獣たちと戦うのだ。はっきり言って女子供の存在は邪魔だ。できることなら離れて座ってほしかった。

いよいよ死闘が始まる。

戦いは芳しくなかった。何度かビッグボーナスを引いたが、こんなものは獣王においてはオマケである。単にサバンナチャンスを引きやすくなる高確率状態にもっていくためだけの小役だ。

 

何度か“ハズレ”も引いたが、サバンナチャンスは来なかった。というか、これ、たぶん設定1だ。あいかわらずこのぼったくり店、やってくれるぜ。次々と家賃が飲み込まれていく。もはや笑うしかない状況だった。人は追い込まれると笑うしかなくなる。命を賭した最後の家賃が次々と飲み込まれていく光景に半笑いでいることしかできなかった。

 

ふと、隣の美人に目をやった。

 

美人はやはり初めて獣王を打つらしく、よくわからない感じで戸惑いながら打っていた。完全に獣王素人丸出しだ。ただ、周りみんなが中押しで押している(ハズレを察知しやすい)ので、見よう見まねで中押しをしているらしく、なんだかその姿がかわいらしかった。

テロテロリーン。美人さんの台から軽快な音がした。

 

軽快な音楽と共に右のドット画面にマングースが出るとなかなか熱い。ハズレ目とかボーナスの期待が高まる演出だ。その熱い演出が美人さんの台に出現したのだ。

お。

バシュ。

 

けっこう熱い出目だ。これはもしかしたらハズレ目かもしれない。

チェリーを否定したので、この目は“ハズレ”かビッグボーナスかレギュラーボーナスである。ただ、どちらかのボーナスだった場合、もうボーナスを揃える体制になるので次ゲーム以降は15枚役が出現しない。つまり、次のゲームで15枚役が成立していれば“ハズレ”目だったということだ。

15枚役が成立したので、先ほどの出目はハズレ目だったということだ。

 

美人さんはよくわかっていないようだが、完全に残念なタイミングでのハズレ目だ。設定がい低い台では本当にビッグボーナス直後とかそういったサバンナチャンスが高確率になっているゾーンでハズレを引かなければいけない。美人さんのタイミングは完全に高確率を逸している。これで設定6ならどこで引こうがほぼサバンナチャンスだが、そんなことはまあ、ありえない。残念なヤツだ。

美人さんの台にダチョウが頻発し始めた。この台は、ドットに登場する動物によって期待度が演出されている。ジョーに似ているカバやシマウマだとお寒いし、マングースはなかなか熱い。ただダチョウだけは熱いとも寒いとも言えないファジーな期待度を持っていた。

 

この感覚が絶妙なのだけど、ダチョウは1回出てくるだけではたいして熱くはない。まあ、なんかあるかも、程度だ。ただ、サバンナチャンスに当たってもう始まるぞ、という段階になって何度も何度も出てくる。

おいおい、めちゃくちゃダチョウでてくるやん。もしかしてもしかして、いや、そんなはずは。ここでのハズレがサバンナチャンスに繋がるなんて、それこそ……、いや、そんなはずは。

 

キキーーーー!(キリンが出てきた(激熱))

うっそーーーー!

 

軽快なサバンナチャンス音楽が響き渡る。うそだろ、これもしかしたらもしかしたら……。

 

このサバンナチャンスは連チャンせず、単発で終わった。普通ならサバンナチャンスは連チャンしてほしいもので、単発で終わることは残念なことだけど、設定6に限ってはそうではない。設定6はほとんどすべてのハズレがサバンナチャンスに繋がるが、ほとんどすべてが単発で終わるという特徴を持つ。つまり、美人さんの台、設定6である可能性がかなり高い。

 

美人さんは小首を傾げながら打ち続ける。

バシュ

 

またハズレ目だ。これがサバンナチャンスに繋がろうものならもう設定6は確定的だ。

ダチョウが頻発する。まさか。まさか。

ぎゃーーー! 設定6だーー!

 

初めて見た。設定6だ。うそだろ。なんでこんなクソみたいなぼったくり店に設定6が入っているんだ。何かの手違いなんじゃないか。

 

僕にとっては都市伝説が具現化して目の前に現れたようなものだった。まさか本当に実在しているなんて。

 

わなわなと震えた。獣王の設定6、どうしても打ってみたい。打ってみたい。ハズレを引けばそれがほとんどサバンナチャンスに繋がるのだ。ほぼ勝てるということだ。つまり家賃を取り戻すことができる。そう、今僕は家賃を賭けて戦っているのだ。欲しい、どうしてもその設定6が欲しい。

 

しかしながら、何度も述べているように獣王の設定6はとにかく分かりやすい。そして勝ちやすい。つまり、手にした人間が途中でやめるとは考えられなかった。誰だって閉店までぶん回すに決まっている。そういった意味では、僕はもう負けたのだ。もうダメなのだ。僕の家賃も最後の1万円札だけになっていた。

 

美人さんはさすが設定6と唸るしかない内容で、何度となくハズレ目を引いてサバンナチャンスを引き、徐々にコインを増やしていった。かなり順調だ。ただ、約2万円ほどになろうかという量のコインを出したところで突如として異変が起こった。

 

「なんか帰り支度を始めてる!」

 

ソワソワとして携帯を見て誰かと連絡を取ったり、台周りの私物を片付け始めている。まさかまさか、いやそんなまさか、ある考えが頭の中をよぎる。

 

「もしかして設定6だってわかっていない?」

 

いつもパチンコばかり打っている美人さんだ、スロットを打つこと自体そんなになく、獣王は初めてかもしれない。よしんば、初めてではなかったとしてもそこまで詳しいわけではないかもしれない。なんかけっこう出るけど調子が悪くなる前にやめようかな、そう考えてもおかしくない。

 

「もしかして設定6を打てるかもしれない!」

 

そんな考えが脳裏に浮かんだ。このまま設定6だと知らずに美人さんが帰ってしまった場合、即座にその台をキープできるのはこの僕だ。美人さんの台が6だと知っているのは僕だけだろうし、誰かに知られていたとしても隣に座る僕が一番早くキープできる。いける。獣王の設定6に座れる。さすれば勝ちは確定。家賃も払えてしまう。

 

「はたしてそれでいいのか?」

 

そんな考えが頭に浮かんだ。隣の美人さんが設定6だと知らずに台を離れようとしている。そこでしめしめ、設定6いただきだぜ、これはあまりにも生物として醜い。ここで台を離れようとする美人さんに「ちょいと待ちな」「あらなにかしら」「その台、6だぜ」これむちゃくちゃかっこいいでしょ。めちゃくちゃハードボイルドでしょ。下手したら惚れるでしょ。

 

「え、設定6って……なんですか?」「やれやれ、これだからお嬢ちゃんは困るんだ、いいから騙されたと思って打ち続けてみな」「ええ……やだ、すごい!」「な?」「すてき、抱いて」ぶちゅーじゃープシャー! これでしょ、これ。

 

とにかく、素人さんに優しくしないといけないと思う。そういった親切心を忘れてしまってはダメだと思う。

 

そこにジョーがやってきて

 

「今日は6ないみたいだから帰るわ」

 

と冗談めかして言いながら帰っていった。隣の台が6だよ! と心の中で叫んだが、話がややこしくなりそうなので黙っておいた。

 

ジョーは僕の隣が6ともしらず、カバみたいなマヌケ面で帰っていった。カバみたいと言われてもどんものか分からないと思う。

これだ。

 

とにかく、いくら追い詰められているといえども親切心を忘れてはいけないと思う。ここはきちんと教えてあげるべきだ。

 

「これ、ろく……」

 

そう口にしようとした瞬間、また別の考えが浮かんだ。

 

ここはサバンナなんじゃないのか? そうここは弱肉強食のサバンナだ。

 

そういった考えだ。僕は獣王にやられまくって家賃が払えないところまで追い込まれている。それは弱い奴が食い物にされるというサバンナの正義があるからだ。弱い個体が食べられてかわいそうなんていうやつはサバンナにはいない。そうここはサバンナ。弱い奴は食われるだけさ。

 

そう考えると、美人さん、全くの無防備でこの獣王コーナーに来たことが悪い。獣王の何たるかも知らずに獣王コーナーに来ることは素っ裸でサバンナに来ることと同じだ。一瞬で食い物にされちまう。そう、親切なんてここには存在しないんだ、俺は獣だ、獣になるんだ。獰猛に設定6を狙う獣になるんだ。

 

美人さんが席を立った。

 

獣だ! 俺は獣王だーーー!

 

そう心の中で叫んで、残像が出るほどのスピードで台をキープした。もうなりふり構ってられない。

 

「これが獣王の設定6」

 

生唾を飲み込んだ。都市伝説であった設定6が目の前にある。かっこよさも親切心も、なにもかもかなぐり捨てて死に物狂いで取った設定6だ。

 

これでもう安泰だ。家賃も払える。なんだってできる。それくらい獣王の設定6は勝ち確定の設定だ。いける、きっといける。

 

ただ、一つだけ不安要素があった。最後の金3万3千円を握りしめて最後の勝負にやってきたが、もう7千円しか残っていない。この7千円で勝負をするしかないのだ。もうこれ以上の金はない。いけるのか?

 

とにかく、おちついて計算しよう。例えばざっくりとした計算になるが1000円で30ゲーム回せるとしよう。残りの金で210ゲーム回せる計算だ。この間にビッグボーナスなりレギュラーボーナスなり、ハズレ目からのサバンナチャンスを引ければ安泰だ。

 

設定6のビッグボーナス確率は1/348.6、レギュラーボーナス確率は1/720.1、ハズレ目が約1/243.62、これらのどれかが210ゲームの間に出ればまあ安泰だ。これらのどれかを引く確率は1/119.6。いける。210ゲームの間に1/119.6を引く確率は実に83%。楽勝! そっと千円札を飲み込ませた。

 

残り6000円

 

うんともすんともいわなかった。何回か15枚役が揃ったが焼け石に水だ。設定6とは思えない平凡な立ち上がりだ。

 

残り5000円

 

少しだけ不安な気持ちが生まれつつあった。でも引きやすいといっても1/119.6だし、そんなにすぐには当たらないかも。ならここまで引けないのも妥当ではないか。なにせ今座ってるのは夢にまで見た獣王の設定6だ。いける、いけるんだ。

 

残り4000円

 

変な汗が噴き出てきた。もし、このまま何も引けずに終わったら。夢の設定6にお座りながら所持金不足でスゴスゴと帰る展開になってしまう。それだけ避けなければならない。

 

残り3000円

 

頼む、頼む。なんでもいい、きてくれ。頼む。神様! 家賃の神様! おねがい!

 

残り2000円

 

ぇきhjfwjhwりhv;えrcん:lをrsjヴぇおpc;lmkf;お

 

残り1000円

 

ついに最後の1000円になってしまった。まさかここまで引けないとは。何が巻き起こっているんだ。心臓の鼓動が早まる。どうなってるんだ。頼む、本当になんとかしてくれ。頼む。

テテテテテーン!

バシュン

 

お? いやいやどうせリプレイとかでしょ。

バシュン

 

お? もしかして?

バシュン

 

きたー! ついにきた。これはビッグボーナスかレギュラーボーナスかハズレ目! 助かった! どれでもいい、とにかくきた! ありがとう! 家賃の神様!

次ゲームは普通に15枚役が成立した。つまりさっきのはハズレ目だ。つまり設定6なのでほぼサバンナチャンス! くる。サバンナチャンスくる。

 

ダチョウだ!

こいこいこいこいこいこい。サバンナチャンス、こい。

 

うおおおおおおおお!

 

うおおおおおおおお!

 

うおおおおおおおお!

 

うおおおおおおおお!

 

スゥン

 

うそー。

 

うんともすんとも言わなかった。設定6はハズレ目の93%がサバンナチャンスで、ほぼサバンナチャンス確定なんですけど、ここにきて7%のほうを引いてきたらしく、サバンナチャンスに繋がりませんでした。

 

「嘘だろ?」

 

結局、金がなくなってしまい、呼ぶ友達もおらず、借りる金もなく、そのまま店を後にした。あれだけ夢見ていて設定6を、カッコよさもなにかもかなぐり捨てて、みっともないほどに執着して手に入れた設定6を残して店を後にした。

 

「家賃どうしよ」

 

そう呟いて歩いた帰り道は、いつもよりひんやりとしていた。

 

あの時、どうして美人さんにそれ設定6ですよといえなかったのだろうか。美人さんと仲良くなるとか抜きにして、やはり人間として真っ当に生きるべきだったんじゃないだろうか。だから神は僕に7%の奇跡を割り振ったんじゃないだろうか。

 

あれから18年。僕の部屋にサバンナチャンスの音楽が鳴り響く。できることならあの美人さんに聴かせたかった。それ以上にあの日の自分に聴かせてやりたいと思った。獣王とはそんな機種なのだ。

 

おわり

WRITER pato

ライター

テキストサイト管理人。多数のWeb媒体で執筆するかたわら、狂ったようにストロングゼロを飲むおっさん