パチンコホールの矢印に誘われる

こんにちは。偏愛パチンコライターの栄華です。
今回はこちらのコラージュからご覧ください。

昭和時代のパチンコ店のマッチ箱、私の蒐集物です。見て頂きたいのはマッチそのものではなく、「いつもよくでる」とか「どこで負けてもこゝでは勝てる」といったキャッチコピーです。たいへんそそられる文言ですが、景品表示法に抵触するとか、射幸心を煽るといった事情により目にすることはほとんどなくなりました。

みなさんは勝負に挑むにあたり、「魅惑的なキャッチコピーに誘われたい」という願望はありませんか。私はあります。誇大広告とわかっちゃいるけど「日本一よく入る」なんて甘い言葉に踊らされてホールへ誘い込まれたい。勝ったら「よっ日本一!」と俄然上機嫌になり、負けたら「嘘つきめ、二度と来るかこんな店!」なんてクダをまいて帰るわけです。負けた原因をキャッチコピーに押し付けられるのは、ある意味癒しですからね。

しかし、そんなささやかな望みを叶えるのも難しいのが昨今のパチンコ情勢。こうなったら誰かをアテにすることなく自力で「誘われポイント」を開拓するしかありません。

ということで今回の提案。

パチンコホールの「矢印」に誘われよう!

 

パチンコ店はこちらです

言葉がNGならば、記号からノンバーバルなメッセージを読み取ればいいのです。着目したのが「矢印」。パチンコ店に限らず店舗の看板に矢印は付き物ですね。例えば、駐車場の入口に掲げられている「P→」という表示。これを見たことがない人はまずいないでしょう。

この矢印の役割は、店舗の駐車場に車を誘導すること。
つまり、誘っている のです。

「ミニスカートの女性を見るや自分が誘われていると勘違いして発情する系男子」みたいな発言ですが、のべつ幕なしに「誘ってんだろ」なんて言う気はありません。町じゅうの矢印にいちいち誘われていたら体が持ちませんので、然るべき矢印にちゃんと反応できる心身を創り上げることが大切です。

この記事を書くにあたり、矢印だけに注目して全国のパチンコ店の建物・看板の写真を見直したところ、想像以上にバリエーションが豊かであることがわかりました。タイプ別に紹介してゆきますので、自分がどんな矢印にグッとくるのか把握してみて下さい。

 

矢印の分類

ネットを徘徊していてよい文献を発見しました。慶応義塾大学の最上紗也子・仲谷正史両氏による「矢印の形態学」という論文で、矢印の 要素分解 を試みておられます。身の回りにある生活用品、看板、道路標識に描かれた矢印を234個撮影し、矢印を構成する要素を抽出したところ、「太さ」「長さ」「曲がり」「矢先の角度」「線と面」「切り落とし」「丸み」「分割」に分類することができた、というものです。

文献に載っていた図表を小汚く模写したもの

またこの文献で、矢印は2つのパーツから成ると述べられており、先の部分を「矢先」、棒の部分を「矢軸」と名付けていました。

これを参考にしながらパチンコ店の矢印を分類・解説してゆきたいと思います。

1.まっすぐ・シンプル

矢軸がまっすぐなものです。


店名看板と矢印の間に距離があり、それぞれが「店の存在を知らせる」「駐車場へ誘導する」という役割分担を行っている例。淡々と役割をこなしている感が強く、誘引力(店に誘い込む力のことをこう呼ぶことにします)は弱めです。

 


こうした内照式看板(内側にライトがついていて夜になると発光する)の矢印もまっすぐでシンプルな物が多いです。パネルの中で矢先がスペースを取るので、分割式が多用されるようです。先ほどの役割分担タイプと同じく誘引力は低めに思えますが、内照式看板は消灯時と点灯時のギャップが大きく、灯りが入った時の「呑み屋の看板」を彷彿とさせる趣はたいへん魅惑的です。

 


これも内照式看板の分割型矢印ですが、まっすぐな矢印が切れ切れに表現されており、パーツのひとつひとつが「矢先の傘の部分がない矢印」を形成しているのがわかります。

 


これが同じ形の矢印です。先ほどの文献では分類されなかった形ですね。矢軸のお尻に山型の切れ込みが入っているものを「フィッシュテール型」、まっすぐなものを「ハウス型」と名付けたいと思います。

 

2.まっすぐ・複合


矢印を複数用いる例です。ネオンを点滅させることにより、より誘引力をアップさせる効果を狙っているものと思われます。下段の2例は一見「矢先だけ」を重ねているようですが、見ようによっては短いフィッシュテール型を重ねているとも捉えることができます。

 

フィッシュテール型の重ね使い例。既出の内照式看板(左)も同様

 


また、ユニークなものでは「面」タイプの矢先(三角)を重ねた物もありました。

 

3.まっすぐ・その他


上記以外の「矢軸がまっすぐなもの」です。矢軸の上に文字を配したものが多いですね。また「店名」と「駐車場(店の場所)」を同時に認識させようとの意図が感じられるデザインが多く、パチンコホールらしいインパクトがあります。

 

2.直角


矢軸が直角になっているタイプです。通常、駅などの案内表示にこういう矢印があった場合、曲がる方向を表していますが、パチンコ店の看板にその意味があるものはほとんどありませんでした。看板の周囲を縁取って華やかさを増している(=誘引力を増している)ものと思われます。

別記事で紹介したこの看板の矢印は、曲がる方向を示したレアものでした

 


これらは内側が直角、外側がゆるいカーブというイレギュラータイプで、次に紹介する曲線型に分類すべきかどうか迷いましたが、こちらに入れておきます。

 

3.曲線


やはりこれも曲がる方向を示したものはほぼありませんでした。曲率・長さ・太さ・形も多種多様で、装飾性を増すばかりではなく「まっすぐ帰るつもりだったが急に打ちたくなって立ち寄る」といった 行動を記号化 しているようにも捉えることができ、心理面への働きかけも期待できます。

 

4.マル


他業種の看板に詳しい方に質問です。マルと矢印を組み合わせた看板って、他業種でも数多く見られるものなのでしょうか?

 


このように駐車場表示もマルと矢印を組み合わせた例が散見されます。

もしパチンコ店に限って多用されるのであれば、マルという形は「パチンコ玉」の象徴 であるという推測も成り立ちます。また「P」はParkingの頭文字なのですが、パチンコ・パチスロの頭文字も兼ねており、玉の象徴であるマルと組み合わせて表示することで遊技へのイメージを喚起し、より誘引力を高めているとも考えられます。

 

5.変形

上記1~4に収まらない自由な矢印です。パチンコ店ならではの特色を読み取ることができます。

 

先ほど、マル型はパチンコ玉を表すと述べましたが、このように、矢軸で玉の軌道を感じさせる表現もあります。

 

これらの矢印はいずれも矢軸の尾に膨らみがあり、射的の矢の羽を思わせる形状です。

「的に当たり矢」のモチーフは江戸時代から縁起物としてポピュラーで、的を射抜くかのように矢印が突き出た看板は、パチンコの大当りをイメージさせる縁起のよいデザインと言えるでしょう。

 

まとめ

矢印は本来、ホールや駐車場のある方向を示すだけで事足りるはずの物です。なのに、これだけ豊富なバリエーションが存在するのはなぜでしょうか。

他業種の店舗については情報不足ですが、もしパチンコ店と似たバリエーションの矢印が見られるとすれば、店内での楽しいひと時を想起させ「立ち寄りたい」という気持ちを誘発する必要性があるレジャー施設(ゲーム・カラオケ)や夜のお店などが挙げられると推測します。

パチンコ店との類似性を感じて撮ったカラオケ喫茶の看板

同じレジャー施設でも、大きな動物園やテーマパークなど、外出時の「主たる目的地」となりうる場所にこういったバリエーションは必要ないでしょう。その気のない人の心を変える、またライバル店を凌いで自店を選ばせようと競合することで、こうしたバリエーションが生まれたものと考えます。

しかし、パチンコ店にしろ他施設にしろ、華美な看板は減少傾向にあり、個性的な矢印たちも今後は消えてゆくことが予想されます。実際、新しく作られたホールの矢印は控え目なものばかりです。

「出玉日本一」「勝てる」などの煽り文句が禁じられ、射幸心を刺激するものとしてイベントへの規制が強まり、依存症対策の名のもとに法律まで変わってゆく。それは確かに必要なことなのかもしれません。でも射幸心と上手につきあい、リスクをコントロールしながらパチンコを楽しんでいる多くの人たちはどうすればいいのでしょう。禁じられることに耐えるか、去ることしかできないんでしょうか。

矢印には始点と終点があります。始点から終点に向かって、人や車などが物理的に動きます。そして矢印を見ただけで、人間の意識も始点から終点へと動くのです。終点の先に物語があり、矢印はそれを思い描く想像力を駆り立てる存在でもあります。どうかパチンコ店から矢印まで奪われませんように。品行方正な人々が目の敵にする「幸運を得たいと願う気持ち」も想像力の産物であり、行き過ぎなければ心を支えるものになるのですから。

参考文献
最上紗也子 仲谷正史 『矢印の形態学 ――収集、分解、見立てを用いた分析――』2018年
http://gakkai.sfc.keio.ac.jp/show_pdf/ORF2018-04.pdf

写真協力:八画文化会館

WRITER 栄華

ライター

「パチンコの周辺文化」を探究するフリーライター。全国2200店以上のホールを訪ね歩き写真を撮影するほか、「パチンコ店のトイレ研究」や「パチンコ書籍の蒐集」など、他の追随を許さない独自の着眼点が注目されている。活動媒体は「パチンコ必勝ガイド」「パチンコ・パチスロTV!」など。